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ノンカテ

思い過ごしもコイのうち

春は出会いと別れ、そしてステップアップの季節です。

東京の目黒に「公益財団法人目黒寄生虫館」があります。医学博士亀谷了氏(かめがい・さとる1909-2002)が私財を投じて、1953年に創設した寄生虫学専門の私立博物館です。館内にはサナダムシやアニサキス、エキノコックスなど国内外から集められたちょっとインパクトのある約300点の標本及び関連資料が展示されています。

創設者である亀谷博士が特にお気に入りだったのがフタゴムシです。寄生虫館のロゴマークにもなっていて、「2匹が出会ったら二度と離れない」という寄生虫です。プラナリアと同じ扁形動物の仲間で、雌雄同体の1cmほどの寄生虫です。卵からふ化した幼生はフナやコイの鰓(えら)に到達し、吸血して成長しますが、発育が途中で止まってしまい成熟できません。そこから先がこの寄生虫の変わったところで、合体する相手を探して鰓の上を徘徊し始めるのです。運よく相手が見つかると、お互いに中央背側にある突起を相手の腹側にあるボタン穴にはめ込みます。すると、2体が癒合(ゆごう)し始めます。フタゴムシは哺乳類と違って、同種なら自分以外でも異物として拒絶されません。驚くべきことに、その後は互いの消化系、神経系もつながってしまいます。こうなってはもう、ひとつの生命体といってもよいでしょう。生殖系では、卵巣から出た管が相手の輸精管に接続します。自らの卵を相手の精子によって受精させるわけです。一種の他家受精ですが、複数個体と精子のやり取りはできません。未熟のときに出会った相手と文字通り一体化して一生を過ごすのです。おそらく出会いの確率は低く、相手を選り好みする余裕はないのでしょう。

フタゴムシの習性を「一途な愛」と感じるのは、人間の思い過ごしかもしれませんが…。

(参考資料「月刊クリンネス2017年8月号」)

公益財団法人目黒寄生虫館 (研究博物館:日本)