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よこすか文学館

福澤諭吉の短歌

よこすか文学館<32>

横須賀市にゆかりのある文学者や歴史上の人物にスポットをあてて、時代背景とエピソードを交えながら彼らの文芸を紹介します。

〔咸臨丸の人々〕福沢諭吉(4)

福沢は思いを託した実に多くの漢詩を作りましたが、短歌を詠んだことはほとんどなく、『福沢諭吉全集』にはわずか3首が載るのみです。そのなかの「あるじなき寺に囀る鳥の音を仏の法の経と誤り」は、明治12年6月20日付の楠本正隆宛書簡中に見える歌。福沢は慶應義塾維持資金を政府に借りようとしましたが、結局、断念し、東京府知事の楠本に書簡を送り願書を取り下げる依頼をしました。半年も音沙汰のない政府に対し「あまりに失敬にはあらずや」と不信感を露わにした言葉も見えます。教育の重要性を理解する者がいない政府を「あるじなき寺」とたとえ、そんな政府をあてにしたのは自分の「誤り」であったと自嘲しています。

(洗足学園中学高校教諭 中島正二)