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よこすか文学館

吉野秀雄の歌碑

よこすか文学館<101>

三浦半島に点在する文学碑や史的記念碑を実見し、作者やその作品の成立事情、碑の現状などについてご紹介します。

<吉野秀雄歌碑(佐島天神島)>短歌

この島を北限とせる浜木綿の
身を寄せ合ふがごとき茂りよ

草質(くさだち)といへど逞(たくま)し浜おもと
佐島の磯にいのち根づきし

吉野秀雄(1902-1967)は昭和時代の著名な歌人です。1931年以降、鎌倉に在住し、作歌活動を続けました。

歌碑の歌は、1954年7月の下旬、横須賀に住む知人から、佐島の浜木綿が咲き出したとの連絡を受けて、天神島を訪れた時の詠歌。浜木綿は西南日本の海岸に広く分布して、その北限は年平均気温15℃の等温線とほぼ一致し、横須賀は自生する浜木綿の北限です。

歌碑近くには、「昭和五十二年市制施行七十周年記念 横須賀風物百選 市の花 北限のはまゆう」の掲示があります。上掲2首目の「浜おもと」は浜木綿の植物学上の和名です。同歌の「草質」は、本草学(中国の薬物学)の用語で、草の性質をもつ植物を表す語ですが、歌のなかでは「木とは違って弱々しい草」という意味で、そのような浜おもとがしっかり力強く根付いている様子を詠んでいます。

(洗足学園中学高等学校教諭 中島正二)